J2「1万人スタジアム」は現実的?秋田の新スタジアム問題

スタジアム

「J2で原則“1万人のスタジアム”が必要」——この基準は妥当なのでしょうか。

大きいスタジアムはワクワクする一方で、地方の現実に当てはめると話は一気に複雑になります。

  • 土地はどこに?
  • お金は誰が?
  • 建てた後の維持費は?
  • そして、観客は本当に集まるの?

秋田の新スタジアム問題は、収容人数の是非というより、スポーツにお金が流れる仕組みと、地域が背負うリスクの構造を見せてくれる事例です。

この記事では、地方クラブが直面するスタジアム問題の本質を、「建てる難しさ」と「維持する難しさ」の両面から整理し、地域にとって無理のないスタジアム基準とは何かを考えていきます。

「1万人」は“建設”と“運営”の両方に負担が乗る

秋田の新スタジアムをめぐる報道は、「J2では原則1万人規模が求められる」という基準が、地方クラブと自治体にとってどのような重さを持つのかを考える材料になります。

ここで押さえておきたいのは、スタジアム整備の難しさが、建てるまで(土地・合意・資金)と、建てたあと(運営・集客・財政)の両方にまたがる点です。

どちらか一方だけの問題として語りにくい構造があります。

秋田で何が起きた?

報道によれば、秋田市長は新スタジアム整備をめぐるJリーグとの協議で「5,000人規模では不十分」と指摘を受けたことに対し、地方の実情に合っていないとして不満を示しました。

また、「誰が運営して、誰がお金を出すのか」という点についても触れられています。もし公共施設として作るなら、県や市が責任を持つべきだ、という意見もあったようです。

このニュースは「収容人数」の話に見えますが、実際には「誰がどこまで負担するのか」「どの規模なら持続可能か」といった論点が背後にあるように見えます。

JリーグとBリーグ、何が違う?

「なぜ急にバスケの話?」と思うかもしれませんが、実は今、スポーツビジネスの世界では「Jリーグのスタジアム」と「Bリーグのアリーナ」がよく比較されます。

共通点と決定的な違いを押さえておくと、問題がよりクリアに見えてきます。

共通点:上のリーグに行くには「箱」が必要

Jリーグ(サッカー)もBリーグ(バスケ)も、チームが強くて勝つだけでは上のリーグに行けません。

「一定規模の立派なホームスタジアム(アリーナ)」を持っていることが、昇格の条件(ライセンス)になっているのです。

だからこそ、秋田のように「チームは強いのに、スタジアムが基準を満たしていないから問題になる」というケースが起こります。

決定的な違い:稼ぎ方のルール

しかし、同じ「1万人の箱」でも、中身は別物です。

  • サッカースタジアム:屋外で天然芝が必要なことが多く、コンサートなどのイベント利用が難しい。「試合の日だけ」の稼働になりがちです。
  • バスケアリーナ:屋内で天候に関係なく使え、ライブや展示会にも貸し出しやすい。「毎日使えるイベント会場」として稼ぎやすいです。

つまり、Jリーグのスタジアムの方が、「作った後の稼ぎ方(=維持費を賄うこと)」のハードルが高い傾向にあります。

この違いが、地方自治体がスタジアム建設に慎重になる大きな理由の一つです。

サッカーの「当たり前」は、他競技の「異次元」

J2(2部リーグ)の基準である「1万人」。サッカー界では当然の数字かもしれませんが、他競技から見るとその高さに驚かされます。

実はこれ、バスケBリーグの将来的なトップカテゴリー(B.PREMIER)と同じ規模なのです。

「2部リーグなのに、他競技のトップ並みの箱が必要」

これはサッカーというスポーツの圧倒的な人気とビジネス規模の裏返しでもあります。しかし、人口減少が進む地方都市で、この「1万人」を埋め続けるのは至難の業です。

では、なぜリーグはあえて高いハードルを課すのでしょうか。

Jリーグのクラブライセンス制度の目的には、安全でサービスの行き届いた観戦環境の整備などが含まれています。

たとえば基準には、避難動線や照明(照度)、メディア対応の電源・回線、トイレの設置数、座席の仕様など、運営に必要な要素が具体的に並びます。

Jリーグがプロとして高品質なサービスを提供したい一方で、それをクリアするハードルが高い地方の現実。

ここに、「リーグが守りたい品質」と「地方が背負える現実」の大きなズレが生じているのです。

では、地方でこの基準を満たすスタジアムを作る場合、具体的にどのようなハードルがあるのでしょうか。

ここからは、地方クラブが直面する課題を、

  • 「土地と合意」
  • 「お金と建設」
  • 「運営と集客」

という3つの壁に分けて解説します。

壁①|土地と合意形成

スタジアム整備は、まず候補地の確保が前提になります。加えて、周辺環境との調整が必要になります。

  • アクセス(駅からの導線、道路の混雑、駐車場)
  • 周辺環境(騒音、ゴミ、夜間照明)
  • 安全・防災(避難計画、周辺道路の容量)

この段階では、技術や資金以前に「合意形成」が中心課題になりがちです。自治体、住民、クラブ、地権者、企業など利害関係者が多く、意思決定に時間がかかる傾向があります。

壁②|お金と建設

次に、建設費をどう賄うかという論点が出てきます。

一般に、スポーツ施設の整備は「公設(自治体)」「官民連携」「民設民営」など複数の形があり、選ぶ方式によって負担とリスクが変わります。

また建設費は、座席数だけで決まりません。屋根の範囲、導線、照明、放映設備、バリアフリー、トイレや売店の容量など、仕様の積み上げで変動します。

そのため「1万人にする=単純に席を増やす」ではなく、付随する設備投資も増えやすいという構造があります。

壁③|運営と集客

施設は完成して終わりではなく、維持管理と運営が継続します。

もし現在の需要が5,000人規模で、施設が1万人規模になった場合、当然ながら「埋め方」をどう設計するかが論点になります。

ここは地域の人口やアクセス、クラブの競技成績だけでなく、マーケティングや商品設計にも関わります。

また、収益はチケットだけではありません。

  • 飲食・物販
  • 広告・スポンサー
  • 法人向け席(VIP等)
  • ネーミングライツ
  • 非試合日のイベント利用

こうした複数の収益源の組み合わせで、赤字幅が変わる可能性があります。

ただし地方では、法人需要やイベント市場の厚みが都市部ほど大きくないこともあり、同じモデルがそのまま成立するとは限りません。

結果として「運営が難しい」と語られる背景には、地域市場の条件が影響している場合があります。

1万人スタジアム vs 1万人アリーナ

ここまで「スタジアムの難しさ」を見てきましたが、近年はBリーグなどで「アリーナ建設」の話題も増えています。

同じ「1万人規模の箱」を作る話に見えますが、実は屋外のスタジアムと屋内のアリーナでは、ビジネスとしての性質が大きく異なります。

ここで改めて、両者の違いをビジネス視点で整理してみましょう。

  • スタジアム(屋外):試合日に利用が集中しやすく、雨や暑さなど天候の影響も受けます。そのため、非試合日にどう稼働させて収益を作るかが課題になりやすいです。
  • アリーナ(屋内):バスケ以外のイベントにも使いやすい反面、音響・照明・空調など屋内施設特有の設備投資や運営ノウハウが必要になりやすいです。

どちらが「難しい」と一概に言うのは難しく、地域の立地条件、周辺開発、運営体制、イベント市場などで見え方が変わります。

基準は地方に合う?

このニュースが投げかけている問いは、次のように整理できます。

  • リーグが「基準」を作るのは理解できるけれど、地方の現実(人口や経済)とどうバランスを取るのか?
  • 「収容人数」という数字だけで決めてしまって、本当にその地域に合ったスタジアムになるのか?
  • スタジアムを作ることが、その地域にどんなメリット(お金や雇用など)をもたらすのか、どうやって判断すればいいのか?

答えは簡単ではありませんが、少なくとも「人数だけの議論」ではなく、事業としての持続可能性(費用と収益、責任分担、地域の需要)の議論につながりやすいテーマだと言えます。

人数以外で解決策はある?

「人数を増やすか、減らすか」という議論だけでなく、もっと柔軟に考える方法もあります。

例えば、次のような工夫です。

  • 将来、必要になったら増築できる設計にしておく(最初は小さく作る)
  • 試合がない日も、カフェやイベントで人が集まる仕組みを作る
  • スタジアムの中だけでなく、周辺のお店や観光地にお金が落ちるようにする
  • 「誰が赤字のリスクを負うのか」を最初に決めておく

こうした工夫次第で、同じ規模のスタジアムでも「負担の重さ」は変わるかもしれません。もちろん、地域によって正解は違うため、「こうすれば絶対に大丈夫」という簡単な答えはありませんが、考える価値のあるポイントです。

まとめ|大切なのは「続けられるかどうか」

秋田のニュースは、単に「基準が厳しいか、甘いか」という話ではありません。スポーツ施設を作るということは、ビジネスとお金、そして地域の未来が複雑に絡み合う大きなプロジェクトだということを教えてくれます。

土地を見つけて、お金を集めて、作って、運営して、お客さんを呼び続ける。

このすべてのステップがうまくいかないと、スタジアムは地域のお荷物になってしまいます。

結局のところ大事なのは、「何人入るか」という数字だけではありません。

無理をして空席だらけの立派な箱を作るより、身の丈に合ったサイズで、毎試合熱気であふれるスタジアムを作る。必要なら後で増席できるようにしておく。

「席の数」ではなく「熱狂の密度」を追求することこそが、地方クラブが生き残るための、最も現実的で健全な戦略ではないでしょうか。

参考

競技場の規模不十分と指摘された秋田市長…Jリーグに不満「足りないから増やせは、地方の実情に合っていない」(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース
 秋田市の沼谷純市長は23日の記者会見で、サッカーJ2・ブラウブリッツ秋田の新スタジアム整備を巡り、「Jリーグのシステムが地方の実情に合っていない」として、Jリーグの姿勢に不満を示した。