スポーツ施設に『美しさ』は必要か?世界で最も美しいアリーナに選ばれた地方都市のアリーナが問いかけるもの

アリーナ

アリーナに求められるのは、試合が見やすいことだけだろうか?

その問いに答えるように、世界で最も美しいアリーナの一つが、日本の地方都市に存在している。

2025年12月、香川県高松市にある「あなぶきアリーナ香川」が、ユネスコ本部創設の建築賞「ベルサイユ賞」でスポーツカテゴリーの最優秀賞を受賞したというニュースがありました。

世界で最も美しいスポーツ施設を選ぶこの賞で、スポーツカテゴリーの最優秀賞を獲得したのは国内初とのことです。

あなぶきアリーナは、B3・香川ファイブアローズのホームアリーナとしても使われている1万人規模の施設です。

このニュースを見て、一つの疑問が浮かびました。「スポーツ施設に『美しさ』は必要なのだろうか?」という問いです。

機能さえ充実していれば十分なのか。美しさを追求すれば建設費も高くなる。それでも、建築美を追求する価値はあるのか——。

最近Bリーグを見に、同じ1万人規模のららアリーナとトヨタアリーナを訪れました。その体験と今回のニュースを重ね合わせて、この問いについて考えてみたいと思います。

スポーツ施設における「機能」と「美しさ」

実際に見た機能重視のアリーナ

ららアリーナとトヨタアリーナは、どちらも1万人規模のアリーナです。バスケの試合を見に訪れてまず感じたのは、その圧倒的な規模感でした。

建物の外観はモダンで重厚感があり、いわゆる「アリーナ」という言葉から連想される佇まいです。

内部に入ると、機能性の高さが際立っていました。観客席からコートまでの視界、音響設備、動線設計——すべてが「試合を見る場所」として最適化されています。

観客に快適な観戦体験を提供するという目的において、非常に高い完成度を持った施設だと感じました。

これらは、アリーナとしての「機能美」を追求した結果と言えるでしょう。

あなぶきアリーナの異なるアプローチ

一方、あなぶきアリーナは、ニュースで見る限り、異なるアプローチを取っているようです。

香川県の発表によれば、「島々を思わせるシルエット」や「周辺地域との調和」が評価されたとのこと。

つまり、機能的な箱としてだけでなく、瀬戸内海の多島美という地域性を建築に落とし込み、景観の一部として存在することを意図したデザインということになります。

これは、「試合を見る場所」という機能に加えて、「建造物としての外観美」にも重きを置いた設計思想だと考えられます。

二つの方向性の違い

ららアリーナやトヨタアリーナが「機能を最大化するデザイン」だとすれば、あなぶきアリーナは「地域性と建築美を表現するデザイン」という整理ができそうです。

どちらが優れているという話ではなく、設計の優先順位や目指す方向性が異なるということでしょう。

建築美がもたらす価値とは

「場所」と「シンボル」の違い

機能重視のアリーナは、優れた「場所」を提供します。一方で、建築美を持つ施設は「街のシンボル」になる可能性があります。

例えば、シドニーのオペラハウスは、オペラやコンサートを開催する機能を持ちながら、それ以上にシドニーという街、オーストラリアという国を象徴する建築物として認識されています。

あなぶきアリーナも、瀬戸内の景観と一体化することで、高松や香川を代表する建築物になる可能性を持っていると言えるかもしれません。

建設費と長期的価値のバランス

建築美を追求すれば、一般的に建設費は高くなります。限られた予算の中で、外観の美しさにどこまで投資すべきかは、難しい判断になるでしょう。

ただし、街のシンボルとなる建築物は、数十年以上にわたって存在し続けます。

地域の誇り、観光資源、記憶に残る景観——そうした長期的な価値をどう評価するかによって、判断は変わってくるのかもしれません。

世界基準で見た日本の建築

ベルサイユ賞の意味

ベルサイユ賞は、ユネスコ本部が創設した建築賞で、カテゴリーごとに世界の優れた建築物を表彰しています。

今回のスポーツカテゴリーには、アメリカやフランスなど各国の施設がノミネートされていました。

その中で、日本のアリーナが最優秀賞を獲得したという事実は、一つの示唆を与えてくれます。

日本建築の評価

欧米、特にヨーロッパには歴史ある建築物が多く、芸術や建築に対する理解も深いというイメージがあります。

そうした中で、日本の建築、しかも最近できたばかりのスポーツ施設が世界的な評価を得たというのは、注目すべき事例と言えるでしょう。

地域性を活かし、機能と美を両立させた建築には、世界基準で見ても価値があるということなのかもしれません。

機能と美の両立は可能か

あなぶきアリーナの実績

あなぶきアリーナでは香川ファイブアローズのB3の試合をはじめ、さまざまなエンタメイベントが開催されており、開業半年で延べ46万人が利用、施設稼働率は94%とのことです。

つまり、建築美を追求しながらも、アリーナとしての実用的な機能は十分に果たしているということになります。

二項対立ではない選択

「機能」か「美しさ」かという二項対立ではなく、両方を追求するという選択肢もあり得るということでしょう。

もちろん、予算や立地条件、地域のニーズなど、さまざまな制約の中での判断になるはずです。すべての施設が建築美を追求すべきだという話ではありません。

ただし、状況によっては、両立を目指すという選択肢も検討に値するのかもしれません。

これからのアリーナを考える

何を優先するのか

アリーナにおいて、何を優先すべきかは、地域や施設の性格によって異なるでしょう。

機能性、コスト、景観との調和、地域性の表現、シンボル性——さまざまな要素がある中で、どこに重きを置くかは、一つの正解があるわけではありません。

Bリーグの新構造とアリーナ基準

Bリーグは2026年シーズンから新しい構造に移行します。競技成績だけでなく、「売上」「観客数」「アリーナの有無」が上位カテゴリーの基準になっています。

これは、施設の質がクラブの将来を左右する要素になることを意味しています。機能面だけでなく、集客力を高める要素として、建築美がどのような役割を果たすのか。今後、注目していく必要がありそうです。

長期的視点の必要性

建築物は長期間存在し続けるものです。初期の建設費だけでなく、数十年後にその建物がどのような価値を持つかという視点も、検討材料の一つになるのではないでしょうか。

今回のあなぶきアリーナの受賞は、そうした長期的な視点で建築を考える一つのきっかけになるかもしれません。

まとめ

スポーツ施設に「美しさ」は必要なのか。

この問いに対する答えは、おそらく一つではありません。施設の目的、地域の状況、予算、さまざまな要素によって変わってくるでしょう。

ただし、あなぶきアリーナのベルサイユ賞受賞は、「機能だけでなく建築美も追求する」という選択肢が、世界基準で評価され得ることを示した事例と言えます。

これからのアリーナにおいて、何を重視し、どこに投資するのか。その判断の材料として、今回の受賞は一つの参考になるのではないでしょうか。

瀬戸内の島々を思わせるというあのシルエットが、私たちにどんな問いかけをしているのか。もう少し考えてみる価値はありそうです。

参考

県立アリーナが「世界で最も美しいアリーナ」ベルサイユ賞(最優秀賞)を受賞しましたwww.pref.kagawa.lg.jp

スポーツのカテゴリーで国内初「あなぶきアリーナ香川」がユネスコ建築賞で最優秀賞「ベルサイユ賞」 高松市 | KSBニュース | KSB瀬戸内海放送 香川県立アリーナ「あなぶきアリーナ香川」が、ユネスコ本部に創設された建築賞で最優秀賞の「ベルサイユ賞」を受賞しました。スnews.ksb.co.jp