バスケコートを作るのは「夢」だけど、「現実」はかなりシビアです
バスケ好きなら一度は描く「自分のコートを持ちたい」という夢。
自分も創業メンバーとして、実際にその立ち上げと運営の現場に立ってきました。
だからこそ、最初に正直な話をします。
本当に難しいのは「作ること」ではなく、「作った後に維持し続けること」です。
多くの人が頼りにする「スクール・イベント・レンタル」の3本柱だけでは、毎月の家賃や経費を賄い、コートを継続するのは極めて難しいのが現実です。
でも、これは「無理だから諦めろ」という話ではありません。
この記事では、夢を夢のままで終わらせず、持続可能な形で実現するために必要な「厳しいけれど大切なお金の話」を共有します。
「なぜ難しいのか(仕組み)」を知れば、「どうすれば乗り越えられるか」も見えてくるはずです。
💡【この記事で分かること】
●なぜバスケコート単体での黒字化はこんなに難しいのか?
●飲食店や美容室と比較した「稼げる金額」のリアルな差
●スクール運営を待ち受ける「3つの壁(少子化・地域性・競合)」
●それでもコートを作りたい人が知っておくべき「新しい生存戦略」
なぜバスケコートの運営はこんなに難しいのか
「やり方が悪いから」ではなく、どうしても変えられない条件(仕組み)としてキツい部分がいくつかあります。自分の経験から整理すると、大きく3つです。
① スポーツに「高いお金を払う文化」が弱い
日本では、スポーツを「お金をかけずに楽しむもの」という価値観が根強く残っています。
無料〜低価格でスポーツができる環境が整っている
- 公園や学校の体育館:ほぼ無料で使える
- 公共の体育館:バスケコート1面2時間で2,000〜3,000円程度(地方の場合)
- 部活動:月数千円程度の部費で、毎日指導が受けられる
- 地域のクラブチーム:月謝3,000〜5,000円程度
民間施設で価格を上げられない現実
自分が運営していたコートでは、実際にこういった価格設定でした:
- コートレンタル(貸切):1時間数千円
- コートレンタル(自由利用):1人数百円
- スクール月謝:6,000〜8,000円(週1〜2回)
- イベント参加費:1回500円程度
なぜこの価格なのか?
これは公共施設や無料の選択肢と比較して、相場感を合わせた結果です。これより高くすると、誰も来なくなってしまうからです。
たとえば:
- スクール月謝を15,000円にしたら? → 地域でやっているクラブチーム(月3,000〜5,000円)に流れる
- コートレンタルを1時間10,000円にしたら? → 公共体育館(1面2,000円)を使う
- 自由利用を1人2,000円にしたら? → 公園や学校で無料でやる
つまり、「適正価格」だと思って設定した金額でも、実際には公共施設との比較で「ギリギリ来てもらえる上限」でしかなかったんです。
この価格設定は、市場を調査して他の民間施設の相場も見た上で決めたものなので、大体どこのバスケコート運営も似たような金額帯になっていると思います。
「スポーツは安くできるもの」という前提がある以上、単価を上げて利益を出すモデルが取りにくいのが現実です。
② 同じ広さでも、稼げる金額が全然違う
バスケコートの運営が難しい最大の理由は、「同じ広さの建物でも、業種によって稼げる金額が桁違い」という現実です。
たとえば、バスケコート1面を作るのに必要な150坪(約500㎡)の建物で、月の売上をざっと計算して比較してみます。
【飲食店の場合】月の売上 2,400万円〜
計算例:
- 客席数:約150席(150坪のうち約60%を客席に使用)
- 1人が使う金額:ランチ1,000円、ディナー3,000円
- お客さんの入れ替わり:ランチ2回、ディナー1.5回(回転数)
- 営業日:月25日
売上の計算:
- ランチ:150席 × 2回 × 1,000円 × 25日 = 750万円
- ディナー:150席 × 1.5回 × 3,000円 × 25日 = 1,687万円
- 合計:約2,437万円
【バスケコートの場合】月の売上 150〜200万円
計算例:
- コート面数:150坪でようやく1面(公式サイズより少し狭め)
- スクール:150人 × 月謝8,000円 = 120万円
- コートレンタル:1時間5,000円 × 1日平均2時間 × 25日 = 25万円
- イベント:月4回 × 20人 × 500円 = 4万円
- 合計:約149万円
つまり、同じ家賃を払っていても、バスケコートは他の業種の1/10程度の売上しか作れない仕組みになっています。
なぜこんなに差がつくのか?
売上はシンプルに考えると、「1回あたりの料金 × 1日に使える回数 × 同時に利用できる人数」で決まります。
バスケコートの場合:
- 料金:公共施設より高くすると、人が来なくなる
- 回数:1日は24時間しかなく、深夜営業も難しい
- 人数:ものすごく広い場所を使っても、コートには最大で30人程度しか入れない
飲食店の場合:
- 料金:食事1回で数千円は普通
- 回数:ランチとディナーで1日何回もお客さんが入れ替わる
- 人数:座席を詰めれば100人以上入れる
さらに、バスケコートは広い面積が必要なので家賃が高く、天井を高くしなければならないため空調費などの光熱費もかさみます。
つまり、「売れる金額は少ないのに、かかるコストは大きい」という構造になっているんです。
③ スクール売上は、少子化と地域性に大きく縛られる
特に子ども向けのスクールに依存するモデルは、これからどんどん厳しくなっていきます。
スクール事業が抱える3つの制約
スクールの売上は、以下の3つの条件に強く左右されます。
① 地域に子どもがどれだけいるか
バスケスクールの主な対象は小学生〜中学生です。しかし、日本の出生数は年々減少しています。
少子化のデータ:
- 2023年の出生数:約75.8万人(外国人含む)
- 2000年の出生数:約119万人
- → 約23年で約40%減少
さらに、今後も減少が続くことがほぼ確定しています。つまり、「子どもの絶対数が減り続ける中で、新規生徒を獲得し続けなければならない」という構造的な難しさがあります。
② その地域で「バスケ」が一番の選択肢になれるか
地域ごとに、「どのスポーツが盛んか」という傾向や文化は大きく違います。ここを理解しておかないと、思うように生徒が集まらないことがあります。
- 「野球やサッカーが盛んな地域」の場合
運動が好きな活発な子は、まずその地域で一番人気のスポーツを選ぶ傾向があります。保護者の方もその環境に慣れているため、バスケが最初の選択肢になりにくいことがあります。 - 「部活動が強い中学校」がある場合
もし学区内の中学校が県大会や全国クラスの強豪校なら、わざわざ会費を払ってスクールに通う必要性を感じにくいかもしれません。「学校でレベルの高い指導が受けられる」という環境がある中で、スクールを選んでもらうには明確な理由が必要になります。
③ 競合するスクールや部活がどれくらいあるか
仮にバスケが人気の地域でも、
- 近隣に他のバスケスクールがある
- 学校の部活が盛んで、月数千円で指導が受けられる
- 地域のクラブチームが格安で活動している
こういった状況では、限られた生徒数を取り合うことになります。
売上の天井が見えている
スクール事業には、物理的な限界(売上の天井)があります。
もちろん大規模なスクールなどの例外はありますが、「コーチ1名が生徒15名を指導する」という一般的な適正人数で考えると、売上の上限は大体決まってきます。
【最大売上の試算(コーチ1名の場合)】
※コーチを雇うとさらに人件費がかかるため、ここではオーナー自身が1人で教える前提で計算します。
週5日・1日2クラス(計10クラス)を運営した場合:
- 最大生徒数:150人(1クラス定員15人 × 10クラス)
- 月謝:8,000円
- 月の売上上限:120万円
これが理論上の目安です。ここから家賃や自分の生活費、光熱費を引くことになります。
実際には「常に満員」はあり得ないので、売上はこれよりも下がります。
単価を上げることも難しい
「それなら月謝を上げればいい」となりそうですが、それも簡単ではありません。
- 家計の壁:一般的な習い事予算(月1〜1.5万円)の上限に近づく
- 競合との差:公共施設のクラブ(月5,000円前後)との価格差が広がりすぎる
月謝を上げすぎると、複数の習い事をしている家庭では「まずはバスケを辞めよう」という判断になりやすく、結果として生徒数が減ってしまいます。
つまり、「少子化で市場が縮小」「地域性で需要が限定」「競合で単価が上げられない」という三重苦の中で、「スクールだけで安定的に伸ばす」のはかなりリスクが高いと感じています。
現場で感じた「詰まりどころ」はこんなところ
ここからは、自分が実際にバスケコートの運営に関わって感じたことを、もう少し具体的に書きます。
スクール・イベント・レンタルの3本柱だけでは、どうしても限界が見える
コート運営の王道パターンとして、
- スクール事業
- イベント事業
- コートレンタル事業
この3つを組み合わせるモデルがあります。自分もまさにこのパターンで運営してきましたが、正直なところ、この3つだけで「コートの運営費+人件費+将来の投資」まで賄うのはかなり厳しいという感覚がずっとありました。
「もっと枠を増やせばいい」「イベントを増やせばいい」と頑張っても、最終的には人の時間と体力の限界に突き当たります。
「安くできる場所」との比較から逃れられない
どれだけ良いコートをつくっても、
- 近所の体育館は安い
- 学校の部活やサークルはほぼ無料
という現実は変わりません。「ここに来ないと得られない価値」をつくろうとしても、そもそもの土台が、「スポーツは安く(または無料で)できるもの」です。
そのため、価格の説得力をつくるのが本当に難しいと感じてきました。
AIやスポーツテックを入れても、売上が劇的に伸びるイメージが湧かない
最近は、
- 動画解析
- AIコーチング
- トラッキングシステム
など、スポーツテック(IT技術)の選択肢も増えています。ただ、正直なところ、最新のテクノロジーを導入したからといって、月謝を倍にできるかと言われると、そうは思えないというのが今の自分の感覚です。
体験価値や人との関係性が中心のスポーツでは、
- テクノロジー=効率化・可視化
- でもそれが=「払いたい金額の大幅アップ」にはつながりにくい
というギャップがあります。どんなにすごい分析ができても、保護者の方が払える月謝の上限(家計の壁)は変わらないからです。
コーチ一本で「家族を養う」のは、一握りの世界
長くスクール運営やコーチ業をやってきたからこそ、強く感じることがあります。
コーチとして暮らしていくことと、コーチとして家族を養っていくことは、難易度がまったく違う。
1人でなんとか暮らすレベルなら、やり方次第でいけるかもしれません。ただ、
- 結婚して
- 子どもが生まれて
- 将来の教育費や老後も考えて
というラインまで見据えると、「コーチ一本でいく」のは相当な覚悟と運と実力が必要だと感じます。
夢はあります。でも現実はかなりシビアな職業です。
それでも、この仕事が「最高だ」と感じる人がいるのもまた事実で、そこにスポーツの魅力があるとも思っています。
それでもスポーツに関わりたい人へ──現実を知ったうえで、次の形を考えたい
ここまでかなり厳しめの話を書いてきましたが、スポーツを否定したいわけではありません。「スポーツ施設ビジネスの現実的な前提条件」を共有したいという気持ちが強いです。
バスケコートを作ること自体は、今でもすごく魅力的なチャレンジだと思っています。
ただし、これから本気で考えるなら、
✅️コート単体で黒字化することを目指すのでなく、コワーキング、飲食、トレーニング、物販、スポンサーなど、「コート+α」で成立する複合的なモデルを前提にする
こういった発想が必要だと感じています。自分自身も、起業支援の仕事をするようになってから、「スポーツ施設のビジネスモデルをどう変えていけるか」という問いをずっと持ち続けています。
すぐに正解が見つかるテーマではないですが、こうした現場の実感と構造の話を出しながら、新しいスポーツビジネスの形をこれからも探っていきたいと思っています。

