ドームで儲けるか?伝統を守るか?──NFLチーフスに学ぶスポーツ経営のリアル

スポーツビジネス

スポーツチームの本拠地である「スタジアム」って、とても大事な存在です。

単に試合をする場所というだけでなく、チームの顔であり、ファンの気持ちをつなぐ場所。さらに、地元の経済にも影響を与えるような、いろんな意味を持つ場所でもあります。

そんなスタジアムの「これから」について悩んでいるのが、アメリカの人気アメフトチーム・カンザスシティ・チーフスです。

長年親しまれてきた屋外スタジアム「Arrowhead(アローヘッド)」今後も使い続けるのか、それとも、隣のカンザス州に移転して新しいドーム型スタジアムを建てるのか――。

チームは、まさにその大きな選択をしようとしているところなんです。

この記事では、チーフスのスタジアム問題を手がかりに、「伝統を守るべきか、それとも収益を優先すべきか?」 というスポーツ経営のリアルを、考えていきます。


世界一うるさいスタジアム「Arrowhead」ってどんな場所?

Arrowhead Stadium(アローヘッド・スタジアム)は、1972年にできたスタジアムで、50年以上もチーフスの本拠地として使われています。

このスタジアムの特徴は、とにかく応援の声がものすごく大きいこと。

2014年には、観客の歓声が142.2デシベルという記録を出し、「世界一うるさいスタジアム」としてギネスブックにも載りました。ちなみにこの音の大きさは、飛行機のエンジンに近いそうです…!

そんな熱心なファンがいるからこそ、ミズーリ州(今のスタジアムがある州)は「このスタジアムを大事にしたい」と考えていて、約1,700億円(約11億ドル)をかけてスタジアムを改修する支援をしたいと表明しています。


新しい「ドーム型スタジアム」ってどういうもの?

一方で、チーフスのスタジアムを隣のカンザス州に移して、新しく建ててしまおうという話もあります。

しかも、そのスタジアムはドーム型。つまり、屋根がついていて雨でも雪でも関係なく試合やイベントができるスタジアムです。

カンザス州は、「建設費の最大70%を支援する」という法律も通して、本気でチームを呼び込もうとしています。

では、なぜそこまでしてドームを建てようとしているのでしょうか?それは、ドーム型スタジアムなら、年間を通じていろんな大きなイベントが開けるからです。たとえば、

  • アメフトの最高の舞台「スーパーボウル」
  • 大学生のバスケ全国大会「NCAAファイナルフォー」
  • 世界的なアーティストの大規模ライブ

など、天気に左右されない会場として使えるので、経済効果(お金の動き)も期待されているんですね。

つまり、カンザス州にとっては、このスタジアム建設は将来のもうけにつながる「投資」という考え方なんです。


チーフスはまだ決めていません

こうした2つの選択肢を前にして、チーフスはすぐには結論を出しませんでした。

当初は2025年までに決める予定でしたが、今のところ2026年6月まで判断を延ばすことにしたそうです(2025年7月時点の話です)。ただし、「2024年中には方向性を出したい」とも話していて、今も関係者との話し合いが続いています。

このように決断を急がないのは、2つの州の提案をじっくり比べて、より良い条件を引き出すためだと見る人もいます。こうしたやり方は、プロスポーツチームにとっての交渉のテクニックのひとつとも言えるかもしれません。


伝統を守るか、収益を取るか──スタジアムのジレンマ

この問題は、「スタジアムが古くなったから建て替えよう」という単純な話ではありません。

今のスタジアムには、ファンの思い出や誇りが積み重なり、チームの伝統として深く根付いています。

一方、新しいドーム型スタジアムならイベント開催数を増やしやすく、安定した収益を見込めるというビジネス上のメリットがあります。

つまり、スタジアムの将来をどう決めるかは、伝統と収益のバランスをどう取るかという、非常に難しい判断なのです。


あなたならどっち?

  • 伝統を守る
    ファンの思い出と熱狂を最優先し、Arrowhead を改修して今の場所を残す。
  • 収益を取る
    ドーム型スタジアムに移行し、大型イベントを呼び込みやすい環境で将来の収入を伸ばす。

この問いに正解はありません。でも、この決断はチームだけでなく、地元の経済やファン文化、さらにはスポーツ業界全体の未来にまで影響します。

日本でもこれから新しいスタジアムやアリーナが増えていく中で、「チームの本拠地は何のためにあるのか?」を考えるヒントになればうれしいです。


さいごに

スタジアムは単なる建築物ではなく、チームとファンの歴史、そしてアイデンティティを映すシンボルです。

収益やビジネスの視点が欠かせない一方で、そこで培われてきた記憶や感情も同じくらい大切だと感じました。


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